やっちまった…… 


 ありとあらゆる国の童話が「負けず嫌い」をいさめております。売り言葉に買い言葉。非なるようで似ているこのふたつの言葉は、ときに大惨事をおこします。……たとえば、ある男子高校生の頭に。

 本日の六時間目終了直後のことです。ぼくは伸びてきた前髪を憂い、まるまってざくざくと眼に突き刺さるもみあげを憎み、切るのに失敗した後ろ髪を嘆き、憂鬱な気分を暮らしていました。その他にも雑多な感情が心の中でせめぎあい、まじりあい、やがてぽつりと小さな呟きとなって、口からこぼれおちました。
「モヒにしようかな」
 クラスメイト達はいいます。
「できるものか」
「やれるとも。やれるともさ。モヒなんてたいしたことないさ!」
 家に帰ったぼくは、さっそく鋏と鏡を用意し、ゆっくりゆっくり、慎重に髪をきりおとしていきました。
 ひとつきってはまたひとつ。ふたつきってはまたふたつ。
 ……そのうち楽しくなってしまい、みっつきってはまたよっつ。いつつきってはまたむっつ。次から次へと他人になっていく髪。積もる毛束。
 気付けば右の側頭部が焼け野原です。まるで焦土作戦にでもあったかのように、何もかもが死滅した生命の匂いなき世界です。
 ぼくの髪をみた母は笑いました。ぶっころしてやろうか、と思いました。
 しかし負けることなどありません。あした僕は笑って学校へと行き、笑って馬鹿にされてやろうと思うのです。そうすればみなが笑ってとても幸せな世界です。イッツ・あ・ハッピーワールド! 世界はどこまでも平常運転で、星の運行はどこまでも単調です。
 ……負けることなどないのです。でも、次からはちゃんと美容院に行こうと思うのです。そうして言ってやるのです。「モヒにしてください!」と。それだけを願ってぼくはねむりにつくのでした。完。

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