でぃえんびえんふー 

「メランコリック」「星座」「林檎」
こんなん書いてる場合と違う。

あさって、というか、あした、というか、試験です。けっぱる。
 ぼくが缶詰を開けているあいだ、キミはがこんつ、がこんつ、と音をたてながら林檎にかぶりついていた。缶切りはゆっくりと丸い蓋を切り取っていき、完璧に近かった円はぎざぎざと美しく欠けていく。ふちは獣の牙にも似て、いまにもぼくの指へと噛みついてきそうだ。
「でぃえんびえんふー」
 とキミは言った。取り落とした林檎は床に叩きつけられ、果汁が散って舞った。腐ったような甘い匂いがふんわり香った。同じ匂いを口からまき散らしながら、キミは声高に宣言する。
「私は彼女を絞殺しました。それから、彼女を小さくコマ切りにし、そのようにして私の肉を私の部屋に運び入れました。調理し、食べました。オーブンで焼いた彼女の小さなお尻の、なんて甘美で柔らかだったことでしょうか。彼女の全部を食べるのに9日間要しました。私が望むなら彼女をレイプできましたが、それは行いませんでした。彼女は処女のまま天に召されたのです」
 いちど言葉をとめ、ふむ、とうなずいたキミは、もう一度同じ言葉を反復する。
「私が望むなら彼女をレイプできましたが、それは行いませんでした。彼女は処女のまま天に召されたのです」
 それから床の林檎を拾って、再びがこんつ、囓りつくと、嬉しげに言った。
「私が望むなら、か。うん、なかなかいいね。とてもいい。私が望むなら。あはは」
 がこんつ。
「でぃえんびえんふー」
 缶切りが一周し、蓋が開いた。中には少女のヴァギナが、開きかけの花のごとく、ひっそりと咲いている。ぽっかりと穴が空いていて、暗闇は宇宙のごとく。中からは腐ったような甘い匂いが、ふんわりと、ふんわりと、漂ってくる。
「なんだい、その、でぃえんびえんふー、というのは」
 ぼくが聞けば、キミは宙を見据えながら、ぎこちない口調で説明してくれる。
「ふらんす」
「フランスの街なのかい?」
「ちがう。べとなむ」
「……ベトナムの街なのかい?」
「大まかにいえば」
「なるほど」
 窓をあければ、夜。外はさっぱりと晴れていて、冷たい月光と、星座の幾何学紋様とが、遠い世界の太陽を笑っている。あはは、あはは、と笑っている。
 がこんつ。
 ふんわり。
 あはは。
 がこんつ。
 ふんわり。
 あはは。
「メランコリック、オシロスコープ、セルロース。これら三つの違い、あなたはわかるかな?」
 声がして、気がつけばキミが横に立っている。耳元でささやかれる。声は腐ったように甘い匂いで、耳からぼくの頭蓋へと侵入し、のうずいをここちよく浸す。
「でぃえんびえんふーは革命の街だ。非力な生命の、暴力への反抗の叫びだ。そこにはなにひとつ意味がなく、だからこそ唯一のごとく尊い」
 キミはぼくの頬に唇をおしつけ、その柔らかい感触は心臓のとろける体温にも近い。
 下腹があつくなっていく。ぼくが笑い、キミが笑った。
「でぃえんびえんふー」
「でぃえんびえんふー」
 がこんつ。
 ふんわり。
 あはは。
 つまりはそういう夜だった。

Comments:

試験頑張って

ありがとね。
もう終わった。

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