UFOの夏 

お題「灰皿」「タバスコ」「扇風機」

 ダーメダメダメダメ人間(だめ!)にんげーん。にんげーん。
 が、テーマ(嘘


 UFOが飛んでいるのを見た。銀の灰皿を逆さにしたような、あのインチキ写真でよく見るようなチープなUFOだった。その時、私はちょうど手巻きの大麻を吸っていて、巻紙には一冊五十円で買った大学ノートの切れ端を使っていて、上手く巻けずに中身がぽろぽろと零れていて、しかも手元には灰皿がなくて、仕方がないので床に直接灰を落としていて、フローリングは見事に散らかっていて、
(ヤッベ、これは後で村瀬に怒られるかな)
 なんて焦りながら、けれども心の奥底ではそんなのどうでもよくて、THCの作用で脳髄が甘く痺れる感覚を楽しんでいて、しかし奥底のさらに底、無意識の部分では、火事になったらどうしよう、なんて真面目に心配していて、火災保険で一体いくら貰えるんだろう、とか、火災保険で酒をどれだけ買えるんだろう、とか、火災保険で一生食っていけねえかな、とか、そんなことを思っていた。
 そんなことを思っている時、窓の外にUFOを見た。灰皿みたいな形をしていた。
「てめえ、なんでUFOなんだよ! 灰皿みたいな形しやがって。大人しく灰皿然として俺の隣に座っときゃいいじゃねえかよ!」
 青空に向かっていくら吠えども、UFOはUFOのまま変わらず、ジョイントは床へと灰を吐きだし続けている。
 額に汗がにじんだ。部屋の隅に鎮座する扇風機は、二週間前から壊れて動かない。もちろんエアコンなんてものはない。いつだったか「いい加減買えよ」と村瀬に迫ったのだが「黙れ居候」のたったひとことではねつけられた。以来、ひたすら忍耐の時を過ごしている。開け放した窓から風が入り込む気配はない。かわりに中央を陣取ってUFOが居座り続けている。またすこしジョイントが縮み、灰が落ちる。
 しかし、こうも暑いと昔住んでいた部屋を思い出す。あの部屋にもエアコンがなかった。扇風機もなかった。窓の外はマンションで、風が流れることもなかった。ただUFOがあるかないかの違いだけだ。それでもわりと居心地は良かったはずなのだが。どうしてこの部屋に転がりこむはめになったんだったか。かすむ頭ではなかなか思い出せない。ただ、あの部屋でタバスコを一気飲みする村瀬の阿呆面ばかりが浮かんだ。たしかコインの裏表を当てるとか当てないだとかの、しょうもない賭けで勝ったときの話だ。いや、あれは面白かった。そう。確かあの時の村瀬もこんな風に大麻を吸っていた。手元には灰皿が無くて、灰は床に落としていて……。
 ふいに右手から火柱があがった。古い木製のちゃぶだいの、壁に立てかけてあるのが見事に燃えていた。いつのまに火が移ったのか、その傍でジョイントに使ったノートが焼けていて、おそらく火元はそれなのだった。火はしだいに大きくなっていき、そこいらに飛び散り、無数に繁殖し、私の周囲を煌々と照らした。
 かくして、村瀬邸は火事となった。
 赤く染まる世界を目の当たりにして、私はなぜ前の部屋を出て行ったのか、ようやく思い出した。そうだ。あの時も火事になったのだ。そうして私は家を失った。私の家に居候していた村瀬も同様に家を失った。転居の手続きは全て村瀬にさせたので、次の家は村瀬の所有物となった。火災保険はこの家への転居費用と、扇風機を買った代金で使い切ってしまった。酒は一杯分も買えなかった。
 そうだった。そうだった。
 私は満足して、うんうんうんと、ひとり何度もうなずいた。
 次の家はどんなところにしようか。愛しき我が城だ。うんと立派なものにしてやろう。
 そんなことを思った。
 窓の外でUFOが飛んでいた。

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